ことほぎ
ことほぎという方法


2011年9月 国立劇場 文楽公演
『寿式三番叟』(ことぶきしきさんばそう)
「ことほぎ」は、「寿ぎ」や「言祝ぎ」とも書かれ、結婚などの祝儀の場面には「寿」があふれます。
今は少なくなりましたが、婚約に際しての結納の品々の中に高砂人形があったり、結婚の披露宴では親戚の長にあたる男性が『高砂』をうたったりして、若い二人の和合による子孫繁栄と共白髪の老になるまでの長寿を祝い願います。
こうして日本では、ここに登場している「寿」「若」「結」「老」が、順にめぐり続けることが、めでたいこととされてきました。
結びから老いへと変化して行った後、老から若への若返りの重要な結節点が「寿ぎ」です。古来よりこの「寿」に重要な役割をはたすのが「翁」でした。
一方、記紀に登場する神さまの名の「若」が、「分」や「別」と書かれることがあるように、若いというのは「別け」「分け」の意味があります。
これは、結婚の相手としては血の遠い同族以外の異性と結びつかなくてはいけませんので、結婚にあたって(多くは女性の場合に)自分が所属していた一族から別れることが前提になったことが始まりではないでしょうか。
「若い」というのは、何にも従属していない状態(何かから分れ、独立している状態)をあらわしているのです。その「別れ・分れ」をもたらすために「ことほぎ」が必要でした。
想像するに、「ことほぎ」とは、自分の意志とは関係なく花嫁となる女性に対して、結婚の訳を説き、結婚に対して頑なになっている心をほぐすことだったのかもしれません。
こうして、属しているものから分かれることと、異質な他者と合わさることが繰り返される中で、「新たな」結びの前には別れ(若)が必要で、さらに、別れの前にはことほぎ(寿)が必要だということになっていったのでしょう。そしてめでたく結びが実ったあとは老いて固まってゆくのです。そしてまた再び「ことほぎ」される。
それは、萌えの春、盛りの夏、稔りの秋、籠りの冬、と季節が移ってゆくことにも重なっていて、冬から再び春へ向かう前に、若水を汲んで、全てを新たにして年を迎えます。
そして、壊し新たにする神「荒御魂(あらみたま)」と結びと実りをもたらす神「和御魂(にぎみたま)」が認識されてゆきました。そのことは荒ぶる神のスサノオ、和する神のアマテラスとしても象徴されたのです。
ことほぎのRukaiでは、「ことほぎ」を「事を解す(ほぐす)」として位置付け、様々なものを背負って固まってしまった物事をほぐし、再生(若返り)の糸口をみつけることをお手伝いします。