『二十六夜』は、かつて新宿区新小川町にあった日本書院より昭和二十三年四月廿八日に出版された、動物童話集です。

 【目次】

 まへがき

 鹿踊のはじまり

 さるのこしかけ

 茨海小學校

 二十六夜

 月夜のけだもの

二十六夜

宮澤賢治動物童話集(二)
宮澤賢治『二十六夜』昭和23年出版
宮澤賢治

 わたくしたちは、氷砂糖をほしいくらゐ持たないでも、きれいにすきとほつた風を食べ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろの着物が、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、寶石いりのきものに、變つてゐるのをたびたび見ました。
 わたくしは、さういふ綺麗なたべものや着物がすきです。
 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鐡道線路やらで、虹や月あかりからもらつて來たのです。
 ほんたうに、かしはばやしの靑い夕方を、ひとりで通りかかつたり、十一月の山の風のなかに、ふるへながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな氣がしてしかたがないのです。
 ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうで仕方がないといふことを、わたくしはそのとほり書いたまでです。
 ですから、これらのなかには、あなたのためになる所もあるでせうし、ただそれっきりのところもあるでせうが、わたくしには、その見分けがよくつきません。なんのことだか、わけの分からないところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、譯がわからないのです。
 けれども、わたくしは、これらの小さなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなに願ふかわかりません。

まへがき